量子コンピュータ

すべてを順に調べると膨大な回数を必要とする問題も、量子の「重ね合わせ」によって全体をひとまとめにして計算すると、大幅に少ない回数で答えを見つけることができます。

量子コンピュータ:イラスト

量子コンピュータって何?

人類は、文明の始まりの頃から、数を計算するための道具を発明して使ってきました。計算の道具は数を表すもの(数の入れ物)が変わるたびに進歩し、それが人類の文明の飛躍に大きく関わっているのです。

量子コンピュータって何?:図1

量子コンピュータは、いま世界中で研究開発が進んでいる、まったく新しい方式のコンピュータです。そう、数の入れ物がまた変わるのです!
量子コンピュータでは「量子」で数を表します。

量子とは聞き慣れない言葉だと思いますが、ここでは「たくさんの数が同時に入る魔法の入れ物」とイメージしてください。これまでの数の入れ物は、一度に一つの数しか入りませんでした。だから、たくさんの計算をする場合は、中身を入れ替えながら同じ計算を何度も繰り返していました。量子はたくさんの数が同時に入りますから、計算したい数を全部入れておいて、一回計算すれば、全部を計算したことになってしまう、という、まさに魔法が起こるのです。

量子コンピュータって何?:図2

ただ、この魔法にも2つの弱点があります。一つは、量子を魔法の入れ物にしておくのがものすごく難しいことです。ちょっとしたことですぐに魔法が解けてしましまうのです。ですので、計算しているあいだ魔法が解けないようにする方法が世界中で研究されているのです。二つ目は、たくさんの数を入れられても、中を見られる数は1つだけで、他の数はふたを開けたとたんに消えてしまうことです。それだとまったく役に立たなそうですが、問題によっては、ふたを開けた時に欲しい答えが見え、消えるのは要らない答になってくれるような計算手順が見つかることがあります。そのような手順の研究も盛んに行われています。

量子コンピュータには「一回計算すれば、全部を計算したことになる」という、これまでにない特徴があるので、従来のコンピュータでは追いつかないような、膨大な計算が必要になる問題で役に立つことが期待されています。これをみんなが使うようになったときに、人類の文明がどのように変わっているのかは、まったく想像もつきません。でも、私たちはそれを目撃できるかも知れないのです。そう思うとワクワクしませんか?

理化学研究所には、日本で開発された量子コンピュータが実際に動いています。そういう未来はもうすぐかも知れません。

超伝導量子コンピュータ「叡(えい)」:イメージ
超伝導量子コンピュータ「叡(えい)」

量子力学という性質(もっと知りたい人へ)

上ではイメージしやすいように「魔法の入れ物」と表現しましたが、もちろんこれは魔法などではなく、量子力学という、20世紀の新しい物理学で説明される、れっきとした物理現象です。電子や原子のような極々小さな世界では、状態が波のように広がって定まらない性質が見られ、それを「量子」と呼んでいます。状態が定まっていない、ということは、たくさんの状態が重なり合うように同時に存在している、ということでもあります。これを「量子の重ね合わせ」と呼んでいます。また、量子がいくつか集まると、「量子の絡み合い」という、さらに複雑な状態の重なり合いが起こります。「魔法の入れ物」は、この2つの性質を持たせた「量子ビット」で作られているのです。これらの性質はとてもデリケートで、例えば熱や磁場などの影響で、すぐに失われてしまいます。そのため、量子のこの状態を長持ちさせて、それをたくさん集めることが、研究の大きな挑戦になっているのです。

一方、計算手順の工夫も研究が進んでいます。量子コンピュータの計算手順は「量子アルゴリズム」と言います。素因数分解の量子アルゴリズムは20世紀末にすでに発表され、他にもさまざまな問題のアルゴリズムが開発されています。

量子は、目に見えない小さな世界で起こる性質なので、私たちはそれを実感できる体験を持っていません。だからとても不可解な性質に感じ、想像しようとしても魔法のようなものにしかなりません。しかし、研究者たちは想像だけに頼らず、“数理”を使ってそれに立ち向かいます。量子力学を使えば何が起きそうか計算でき、その結果は実験して確かめられます。量子コンピュータの研究はそうやって進んできました。目に見えないものでも、どんなに常識外れに思えることでも、数理を使えば先に進むことができる。そこが数理のすごいところではないでしょうか。

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